パソコンの画面に表示された「応募する」という青いボタン。そのクリックが、どうしてもできませんでした。
新聞記者として9年。毎日取材し、記事を書き、締め切りに追われる日々を送ってきました。
書くことは、息をするのと同じくらい当たり前の日常だったはず。
それなのに、フリーのWebライターとして最初の一歩を踏み出す時、その手は震えていました。
新聞記事特有の型や編集長(デスク)のチェック。
これまで当たり前にあった補助輪が外され、いきなり広大なネットの海に放り出されたような。
正解がどこにも見当たらない恐怖から来る震えでした。
今回は、元記者がWebライティングのトライアルに直面して感じた不安と、そこから一歩を踏み出すまでの葛藤についてつづります。
なぜ「未経験歓迎」に応募できないのか
退職後、クラウドワークスやランサーズに登録したものの、 しばらくの間、案件一覧を眺めるだけの日々を送っていました。
募集文には「未経験者歓迎」「マニュアル完備」といった言葉が並んでいます。
本来なら、長く書く仕事を続けてきた自分にとって、躊躇する理由はないはずです。
しかし、実際には大きなプレッシャーを抱えていました。
どんな記事を書けば正解なのか。
クライアントの求める水準を満たせるのか。
新聞記者時代は、事実に基づいて記事を書けば、デスクがチェックしてくれました。
厳格なルールや型があるため、いわば頑丈な補助輪付きの状態で走っていたのです。
しかし、Webライターは違います。
「SEOの知識がある方歓迎」「構成はお任せします」といった言葉を見るたびに、いきなり補助輪なしで、交通量の多い道路(Web)を走れと、言われているような感覚に襲われました。
自分の中に染み付いた記事の書き方が、ここでは通用しないかもしれない。
その迷いが、クリックする指を重くしていました。
YouTubeシナリオ|「裏取り」という記者の習性が仇となる
意を決して最初に取り組んだのは、YouTube動画のシナリオ作成でした。
しかし、送られてきた指示書を見て再び、「これは自分にできるだろうか」という不安が一気に膨らみました。
構成や語尾のルール、禁止事項など。
初めて目にする細かな決まりがたくさんあり、何から手を付けて良いのか分かりませんでした。
さらに、一番苦戦したのは、自信を持っていたはずのリサーチ業務です。
今回の案件は、ネット上の情報をまとめてシナリオにする仕事でした。
情報のソースが古かったり、曖昧だったりすると、どうしてもスルーできません。
この情報は本当に正しいのか。
裏付けが取れるまで、書くわけにはいかない。
記者時代の名残りなのか、裏取りなしに情報を出すことへの抵抗感は、想像以上に根深いものでした。
納得できるまで過去のニュースや資料を漁り続け、気がつけば、たった1本のシナリオのために、朝から晩までパソコンにかじりつく日が何日も続いていました。
時給換算したら数百円にもならないかもしれない。
薄々そう感づいてはいながらも、手を抜くこともできず、膨大な時間を費やして、なんとか納品ボタンを押すことができました。
Web記事|「自由に書いていい」が一番怖い
もう一つのトライアルは、Webメディアにおける記事作成でした。
こちらは対照的に、テーマと文字数だけが提示され、具体的な構成例や見本はありませんでした。
好きなように書いていい。
この言葉が、自分にとっては一番の恐怖です。
自分の感覚だけを頼りに書き進めることは、暗闇の中を手探りで歩くような不安がありました。
初歩的な質問をして合否に影響しないか。
最後まで質問もできず、「これで本当に合っているのか?」と自問自答を繰り返していました。
終わりに|トライアルで見えた「新しい補助輪」
応募ボタンをクリックし、トライアルまで無事終えることはできましたが、不安が完全に消えたわけではありません。
ただ、こうして振り返ることで、応募に踏み出せなかった怖さの正体が見えた気がします。
WebにはWebの走り方がある。
これから少しずつ、新しい補助輪(Webライティングの型)を自分で見つけていけばいい。
今後も自分の現在地を知るために、恥を恐れず、トライアルに積極的に挑戦していきたいと思います。


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